最初に、なぜ、地方公営企業会計は、地方自治体とは一線を画す特殊な会計を採用していると思いますか?
答えは、地方公営企業の特殊性にあります。
公営企業法
(経営の基本原則) 第3条
地方公営企業は、常に企業の経済性を発揮するとともに、その本来の目的である公共の福祉を増進するように運営されなければならない。
この条文に、公営企業は公共の福祉の増進を目的としていながら、企業としての経済性を発揮することが求められています。地方公共団体とも、また、民間企業とも異なる存在であることが分かります。
同法の地方公営企業会計についての規定をもう少し見てみましょう。
(特別会計)第17条
地方公営企業の経理は、(中略)事業ごとに特別会計を設けて行うものとする。(略)
(経費の負担の原則)第17条の2
2 地方公営企業の特別会計においては、その経費は、前項の規定により地方公共団体の一般会計又は他の特別会計において負担するものを除き、当該地方公営企業の経営に伴う収入をもって充てなければならない。
この条文では、公営企業に、原則として、その経営に要する経費は料金収入をもって充てる独立採算性を求めています。
公営企業が提供する公共サービスは、水道、ガス、電気、医療などです。これらは、誰もが均一のサービスの提供を受けるものではありません。必要な人が、必要なサービスを受けるものです。とすれば、その経費は税負担という形で均一に地域住民が負担するのは公平ではありません。サービスの受益者が受益を受けたサービスの量や内容に応じて、料金という形で経費を負担することが公平となります。これを受益者負担の原則といいます。
ここで少し考えてみましょう。公営企業の独立採算性を維持するためには、受益者が負担する経費、つまり料金収入を、公営企業の経費を賄う水準に設定しなくてはなりません。そのためには、公営企業の経費を正しく認識することが重要になります。
公営企業がサービスを提供するためには、多額の初期投資が必要になります。病院を開院するためには、土地、建物、最新設備を、開業前に準備する必要があります。現金主義では、これらの開業資金を開業前の支出時に全額処理します。
しかし、これら病院の土地、建物、最新設備は、開業後に、地域住民等に必要な医療サービスを提供するために使用するものです。とすれば、現金支出の時に認識するのではなく、サービスを提供するための利用に際して、費用として認識することが合理的であるとしたのが発生主義の考え方です。
公営企業は、独立採算性を維持するために、現金主義ではなく、発生主値を採用しました。発生主義については、後程、くわしく説明をします。
公営企業の目的である公共の福祉の増進のために、法律は、独立採算性の例外も設けました。
(経費の負担の原則)第17条の2
次に掲げる公営企業の経費で政令で定めるものは、地方公共団体の一般会計又は他の特別会計において、出資、長期の貸付け、負担金の支出その他の方法により負担するものとする。
一 その性質上当該地方公営企業の経営に伴う収入をもって充てることが適当でない経費
二 当該地方公営企業の性質上能率的な経営を行ってもなおその経営に伴う収入のみをもって充てることが客観的に困難であると認められる経費
「その性質上企業の経営に伴う収入をもって充てることが適当でない経費」とは、例えば、公共の消防のための消化栓に係る経費です。火災が発生した場合に使用するため、消火栓を整備しておく必要がありますが、水道事業で負担するのは適当ではないとして、一般会計が負担することとしています。
また下水道事業では、一般家庭等からの汚水処理にかかる経費は受益者が受益量に応じて負担しますが、雨水については、一律に、一般会計にて負担することとしています。
「その公営企業の性質上、能率的な経営を行ってもなおその経営に伴う収入のみをもって充てることが客観的に困難であると認められる経費等」は、僻地医療などにかかる経費などを指しており、これも一般会計等が負担するとされています。
これらの一般会計等から補助する経費について、経費負担区分ルールを、毎年度「繰出基準」として総務省から各地方公共団体に通知されます。そして、一般会計等において負担すべきとされた経費等の財源は、原則として「公営企業繰出金」として、地方財政計画に計上され、地方交付税の基準財政需要額への算入、または特別交付税を通じて財源措置がされるのです。