さて、ここからは、公営企業会計の仕組みとして、予算制度と決算制度についても説明をしたいと思います。
(1)予算制度の概要
公営企業会計は、複式簿記、発生主義を採用していることから、公会計よりも企業会計に近いという印象があるかもしれませんが、公営企業会計は、企業会計とも異なります。もっとも大きな相違点は、企業会計が決算重視であるのに対して、企業会計公営企業会計は、予算と決算の双方を重視する点です。
地方公共団体の予算は、執行機関である長が省令で定めた予算様式の基づき作成して、議会の議決を経て成立します。一般会計等の予算は、限られた財源を効率的に使用するために、支出の規制に重点が置かれ、拘束性の強い予算となっています。
一般会計も、公営企業も、予算を超過して現金を支出することはできませんが、公営企業の予算は、公営企業の経済性を発揮するために、経済情勢の変動に機動的に対応するなどの弾力的な対応を認めていることが、最大の特色です。
具体的に法令等で見ていきましょう。
地方公営企業法
(予算)第24条
地方公営企業の予算は、地方公営企業の毎事業年度における業務の予定量並びにこれに関する収入及び支出の大綱のみを定めるものとする。
公営企業予算は、収益的収入及び支出の3条予算と資本的収入及び支出の4条予算に大別されていますが、一般会計等に比べて包括的で、収入及び支出の大綱を定めているに過ぎません。
公営企業の予算の議決項目は、款項のみで、予算の実施計画には、目まで示すのは、議決を受けた款項の説明資料としての位置づけです。予算事項のうち、現金の支出を伴うものは、予算に定められた項目、額を超えて執行することはできませんが、職員給与費、交際費などの科目を除いては、目以下の流用が認められています。
予備費は、予算の執行上、企業の経済性に応じるために設けられたものです。公営企業でも、現金の支出を伴わない経費に使用することは可能です。しかし、公営企業では現金の支出を伴わない経費の予算を超えた支出が法律で認められていますので、現金の支出を伴う経費に不足を来すことによって、企業の経済活動を妨げることがないよう執行することが重要です。
3 業務量の増加に因り地方公営企業の業務のため直接必要な経費に不足が生じたときは、管理者は、当該業務量の増加に因り増加する収入に相当する金額を当該企業の業務のため直接必要な経費に使用することができる。(略)
公営企業の予算は、業務量の増加に伴い収益が増加する場合には、増加する業務に要する経費については、予算超過の支出が認められます。公営企業は、受益者負担の原則のもと、収入と支出が直接リンクしていますので、支出の制限は、収入の減少に直結することから、機動的な対応を認めたもので、公営企業の予算独特の規定です。
(予算の繰越)第26条
予算に定めた地方公営企業の建設又は改良に要する経費のうち、年度内に支払義務が生じなかったものがある場合においては、管理者は、その額を翌年度に繰り越して使用することができる。
2 (略)ただし、支出予算の金額のうち、年度内に支出の原因となる契約その他の行為をし、避け難い事故のため年度内に支払義務が生じなかったものについては、管理者は、その金額を翌事業年度に繰り越して使用することができる。
一般会計等の予算は、歳出の規制に重点を置いている関係上、強い拘束を持たせており、予算通りの忠実な実行の要請が強いため、予算編成後の変更手続きも厳格になっています。しかし、公営企業の予算では、実行過程で予算編成時には予測し得ない事態に直面した場合、そのような環境の変化に対処し、公共のサービスを提供し、収益を確保するために機敏な対応をとることができるよう、一定の弾力性を認めているのです。
公営企業の予算は、管理者が原案を作成し、これをもとに、地方公共団体の長が調整することとされています。管理者に予算原案の作成権を与えているのは、企業経営における、業務執行の責任者としての権限に付随し、予算原案の作成によって、企業の業務執行の方針を明らかにするためです。
(2)補填財源制度について
公営企業予算は、収益的収入と支出を示す3条予算と資本的収入と支出を示す4条予算から構成されます。
3条予算は、当該年度の企業の経営活動に伴い発生するすべての収益とすべての費用を発生主義により計上します。たとえば減価償却費や、引当金のように現金による支出を伴わない費用も計上しますが、当該年度に現金による支出があったとしても、前年度もしくは翌年度の費用として認識する費用もあります。
一方、資本的収支予算である4条予算は、公共の福祉の増進のために必要な諸施設の整備や拡充などの建設改良費、これら建設改良に要する資金としての企業債収入と、企業債の元金償還等の予定を示すもので、原則、現金の収支を伴う項目のみを計上します。したがって、良費等の財源として4条予算の資本的収入に計上されるのは、企業債などの外部からの流入する資金のみです。通常、現金収入は、現金支出に不足するので、補填する財源が必要です。これは、3条予算に計上される減価償却費など現金支出を伴わない費用や、予算書には記載しない当期純利益などの自己資金により賄われます。これを補填財源といい、現金収入が現金支出を下回っているけれど、資金的には可能であることを4条予算本文に明記します。これが、公営企業予算の大きな特徴です。
なお、資本的支出額は、資本的収入額と補填財源の範囲内におさえる必要があります。このためには、公営企業では補填財源整理簿等で補填財源の明細、使用状況等を常に把握しておく必要があります。