ここから、具体的な公営企業会計についてみていきましょう。
先ほどから、公営企業の特色は、複式簿記と、発生主義と説明してきました。最初に、これらについて、説明します。
(1)複式簿記について
経済活動は、経済価値が交換されることにより成立します。たとえば、商品Aを100万円で売買した場合、提供する側には棚卸資産という資産が減少し、替わりに100万円の現金が増加します。提供される側は、反対に、100万円の現金が減少し、商品Aという資産が増加します。
このように、経済活動には2つの側面があります。
この2つの側面のいずれも記帳するのが複式簿記ですが、単式簿記では、1つの側面である現金の増減だけを記帳します。つまり、単式簿記は、現金の収支だけを記帳して、売上や費用などを記帳しないので、企業の損益計算が行えず、企業の全財産の変動経過も記録できません。
取引の2つの側面のいずれも記帳する複式簿記では、その結果は、必ず貸借が一致します。単式簿記には、この自己検証能力がないため、帳簿としての有用性が乏しいとされ、現在の企業会計では採用されていません。
(2)発生主義について
現金主義は、現金の増減に着目して、現金の収入と支出について記帳します。現金の収支という事実に基づいて経理処理するので、簡単であるだけでなく、誰の目にも明らかです。
一方、発生主義では経済価値の変動を伴うすべての事象について、その発生の事実に基づいて記帳します。
通常、公営企業は期限を定めずに、継続して地域住民にサービスを提供することを前提としています。そのために多額の設備投資を行い、その設備を使用して提供されたサービスの対価として、地域住民は使用料を支払います。公営企業にとって、設備の代金は支出した年度に全額を費用として計上するよりも、使用料収入に関連付けて認識するほうが明らかに合理的ではないでしょうか。これを、発生主義といい、公営企業会計において採用されているのです。
そして、ある年度に獲得した使用料などの収益と、これを獲得するために要した費用は、同じ期間に計上することを費用収益対応の原則といいます。これにより、期間損益が正しく把握することが可能になります。発生主義会計は、期間損益の計算にその威力を発揮するのです。
公営企業は、原則として、独立採算性が要求されています。受益者負担の原則のためには、受益者の料金水準を適正に設定することが必要で、適切な期間損益計算が不可欠となります。そのため、公営企業会計では、複式簿記と発生主義を採用しているのです。