2.公営企業会計の一般原則

次に、公営企業法の、公営企業会計の目的についての規程を見ていきましょう。

 

(計理の方法)第20条

地方公営企業においては、その経営成績を明らかにするため、すべての費用及び収益を、その発生の事実に基いて計上し、かつ、その発生した年度に正しく割り当てなければならない。

 

2 地方公営企業においては、その財政状態を明らかにするため、すべての資産、資本及び負債の増減及び異動を、その発生の事実に基き、かつ、適当な区分及び配列の基準並びに一定の評価基準に従って、整理しなければならない。

 

 企業の一定期間の「経営成績」は、損益計算書に、収益から費用を差し引いた金額を利益として表示することで表します。「財政状態」は、貸借対照表に資産、負債及び資本を表示することで明らかにします。

 

公営企業の目的である、公共の福祉の増進を実現するためには、地域住民に公共の福祉を提供するための多額の資金が必要になります。これらの資金は、地方公共団体からの資金の受け入れや借入金で賄います。とすれば、公営企業は、資金を提供した地方公共団体、ひいては地域住民に対して、多額の資金の受託者として、受託資本の管理、運用結果を報告する責任を負っているのです。この責任を、公営企業は、損益計算書や貸借対照表を公表することにより、果たすことになるのです。

 

公営企業が、その「経営成績」や「財政状態」を明示するためには、一定のルールが必要になります。具体的で、詳細な会計処理や表示方法などが法令等で定められていますが、その前提となる、公営企業会計に携わる者の判断の規範となる一般原則、公営企業会計全般に係る包括的基本原則が、施行令第9条に定められています。公営企業会計の基本となる考え方ですので、公営企業会計を理解するためには、ぜひ、押さえておきたいものです。

 

地方公営企業法施行令

(会計の原則)第9条

地方公営企業は、その事業の財政状態及び経営成績に関して、真実な報告を提供しなければならない。

 

公営企業の損益計算書や貸借対照表などで報告される、公営企業の財政状態、経営成績は真実でなくてはならないという意味で、「真実性の原則」といい、会計の最高規範として位置づけられているものです。企業会計でも、同様の原則が規定されています。

ここでいう真実とは、客観的、絶対的な真実ではなく、主観的、相対的な真実を意味します。

会計とは、永続する企業活動を、便宜上、一定期間で区切って、経営成績や財政状態を表示するものですから、多くの事項について、主観的な見積もりが必要になります。また、1つの取引について、複数の会計処理方法が認められている場合があり、採用する方法によって、計算結果が異なります。そのいずれが真実か、という問題に対して、いずれの会計処理を採用したとしても、一般に公正妥当と認められる会計原則に従って処理されているのであれば、その結果はいずれも、真実としてみなされます。そういう意味で、真実性の原則で求める真実とは、絶対的、唯一無二の真実ではなく、相対的真実を意味しているのです。

そして、真実の財務諸表は、以下に説明する5つの会計原則をすべて満たした財務諸表のことです。この「真実性の原則」は、すべての会計原則を満たすことを要請しているものなのです。

 

2 地方公営企業は、その事業に関する取引について正規の簿記の原則に従って正確な会計帳簿を作成しなければならない。

 

これは、「正規の簿記の原則」と言われ、一定の要件に従った正確な会計帳簿を作成し、この正確な会計帳簿を基に、財務諸表を作成することを要求しています。

ここでいう一定の要件に従った正確な会計帳簿とは、①網羅性、公営企業会計の対象となるすべての取引が、正確に記録されていること、②立証性、会計記録が検証可能な証拠資料に基づいていること、そして、③秩序性、すべての記録が継続的に、組織的に記録されていることを求めるものです。

そして、これらの要件を満たす帳簿とは、複式簿記による会計帳簿であることから、「複式簿記の原則」とも言われています。

 

3 地方公営企業は、資本取引と損益取引とを明確に区分しなければならない。

 

これは、資本取引と損益取引区分の原則といわれ、地方公共団体など、公会計にはない概念です。

企業は投下された資本を製品に変えて、外部に販売し、その対価を現金等に転化して回収、投下資本を上回る回収余剰を自らの資本である利益として増加させていく企業活動を繰り返します。

 この企業活動に基づいて、投下された資本を活用するために費用や損失を計上する取引や、期間損益を生み出す取引を損益取引といいます。

資本取引とは、企業活動とは関係なく、増減資等の、自己資本そのもののである資本金や資本剰余金に増減変化をもたらす取引をいいます。

 いずれも、結果として自己資本を増減させますが、その性質は全く異なます。適正な企業活動の成果は、損益取引の結果に限定するべきであり、そのために資本取引と損益取引は、厳格に区別することを求めているものです。

 

4 地方公営企業は、その事業の財政状態及び経営成績に関する会計事実を決算書その他の会計に関する書類に明瞭に表示しなければならない。

 

これは、「明瞭性の原則」といわれています。

公営企業会計は、出資者である地方公共団体や地域住民に対して、公営企業の経営成績や財務状態を報告するものですから、すべての利用者が容易に理解し得るように明瞭に記載する必要があります。定められた様式で貸借対照表や損益計算書を作成し、一定の基準に基づいて勘定科目を使用し、表示し、必要な注記を添付したりすることを求めています。

 

5 地方公営企業は、その採用する会計処理の基準及び手続を毎事業年度継続して用い、みだりに変更してはならない。

 

これは、「継続性の原則」といいます。

継続性が問題となるのは、1つの会計事実に対して、複数の会計処理が認められている場合です。1つの会計事実に複数の会計処理が認められるのは、公営企業は業種や業態、規模などが実に多様であることから、画一的な会計処理を定め、その適用を強制すると、企業の実情を適切に反映しなくなるからです。

公営企業は、自らの意思により、いずれかの会計処理を選択しますが、会計処理を毎期変更した場合には、その公営企業の経営成績や財政状態の期間比較が困難となり、さらには利益操作の手段として濫用される可能性すら出てきてしまいます。そこで、1度採用した会計処理をみだりに変更することは認めないとする、継続性の原則が要求されるのです。

 

6 地方公営企業は、その事業の財政に不利な影響を及ぼすおそれがある事態にそなえて健全な会計処理をしなければならない。

 

これは、「安全性の原則」、もしくは「保守主義の原則」といわれています。

人口減少、減収など、公営企業を取り巻く外的環境は厳しい状況が続いています。このような環境のもとで、財務的健全性を保つための実務上の要請から、収益は確実なものだけを計上し、発生した費用や損失は最大もらさず計上するという保守的な会計処理を求めているものです。

ただし、保守主義の原則は、認められた会計基準の枠内で、最も健全な方法を適用することを求めているもので、過度に保守的な会計処理を行い、利益を隠ぺいすることを求めるものではありません。

 

これらの一般原則の考え方が、公営企業会計の基礎となっており、この原則に従うことによって、地方公共団体とも民間企業会計とも異なる、独自の公営企業会計が適用されることになるのです。

 

 最後に、地方公営企業法施行令には規定されていませんが、それに準ずる原則として、「重要性の原則」が適用されますので、説明をしておきます。

公営企業会計が目的とするところは、公営企業の財政状態、経営成績を明らかにし、地方公共団体や、地域住民に提供するものであるから、公営企業に対する判断を誤らせないようにするために、法令に反しない限り、対象となる取引や事象の金額的側面、及び質的側面の両面から重要性を勘案して、重要性の乏しいものについては、本来の厳密な会計処理によらないで他の簡便な方法によることも正規の簿記の原則に従った処理として認められるというものです。取引や事象の重要性を勘案して、適切な記録、計算及び表示を行わなければなりません。

 

 

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